会長挨拶

2020_kaichou
第56期 会長 岡田 政道
(トヨタ自動車株式会社)

 

塑性加工の発展と進化
Development and Evolution of Plastic Working

 
1. はじめに
 
我が国において,塑性加工は,戦後日本の復興・繁栄を支え,自動車産業,造船業,インフラ・エネルギー産業等の製造業の発展とともに,大きく成長してきた.
図1に日本のGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)の推移と日本塑性加工学会の正会員数の推移を示す.日本塑性加工学会は,日本経済の高度成長時代の初期,1961年に創立され,製造業の発展とともに会員数を増やし,本学会のミッションに掲げられている「物作り,人創り,国造り」で貢献をしてきた.
日本経済が成長期から成熟期へと移り変わると,世の中にはモノが溢れ,ものづくりが成熟するに従い,塑性加工に従事する技術者数も過去ほど必要なくなってきた.教育機関においては,時代に合わせて,学部・学科の統廃合あるいは新設が進み,塑性加工に関連する学部・学科・講座は減少し,塑性加工技術に携わる学生数も減ってきている.
世の中を見てみると,我々の取り巻く環境は,近年,大きく変化している.自動車業界では,Connected(コネクティッド),Autonomous/Automated(自動化),Shared(シェアリング),Electric(電動化)といった「CASE」と呼ばれる新しい領域で技術革新が進み,ものづくりにおいても,作るものが変化してきた.また,人々のニーズがモノからコトへと移り変わり,ニーズに応える取り組みとしてMaaS(Mobility-as-a-Service:新しい社会を実現する交通サービスの総称)という新しい概念が生まれ,自動車業界はまさに大変革期を迎えている.塑性加工分野においても,世の中のニーズに応え続けて行くためには,新たな取り組み・変革が必要な局面にきているのではないだろうか.これからの塑性加工がどのように発展していくのか,期待を込めて筆者の考えを述べてみたい.
 
2. 塑性加工への期待
 
塑性加工に限らず生産技術は,時代時代で求められる製品とともに進化してきた.人々のニーズがモノからコトへと移り変わっても,ものづくりが無くなることはない.リアルな世界のものづくりが,今後も,世の中が求める製品を実現可能にさせるのであり,だからこそ,ニーズの変化とともに塑性加工技術を進化させることが必要なのである.
 
2.1 協業・協創・技術の掛け合わせによる進化
 
成長期には,各分野が分業することで,高効率な大量生産により低コスト化を実現していた.今は,多品種少量とスピードが求められており,ニーズ指向での協業・協創,または技術の掛け合わせによる新たな付加価値創造が必要である.技術の掛け合わせの例をあげると,板プレス加工と冷間鍛造を組み合わせた「板鍛造」は,工程削減,低コスト化のみならず,脱炭素社会のニーズである軽量化に貢献できる技術であり,日本の塑性加工技術の腕の見せ所として期待できる.協業・協創については,これまでは材料,金型,機械プレス,塑性加工は,それぞれ分業していた.これからは,別々ではなく,一緒に考えることで,新価値創造とスピードアップを図る(図2参照).
一例として,高強度材料開発においては,材料単体で開発するよりも,塑性加工による結晶粒の微細化と熱処理とをセットで考えることにより,材料開発の幅が広がり,さらなる高強度化を狙えるのではないか.ニーズ指向で今まで分業していた分野と協業・協創,もしくは技術を掛け合わせることで,塑性加工技術をさらに進化させていきたい.
 
2.2 新規分野の開拓
 
新たな領域創出には,磨き上げた技術・技能を武器に,新しい分野へ進出し,ニーズを開拓することが重要である.
すでにはじまっているのが,医療分野でのものづくりへの挑戦である1).以前から,塑性加工技術は医療分野と無縁ではなく,精密微細鍛造による無痛針の製作,整形外科用プレートや人工股関節ステムなどの冷間・熱間鍛造による素形材加工などが行われてきた.今後,高齢社会における医療機器に求められるものづくり技術は,患者に合わせた多品種少量,複雑三次元構造,高機能・難加工材,低コストがキーワードとなる.こういった分野へ新たに挑戦することで,技術進化と活躍の場の発展が期待される.
新しい分野への進出の例としては,宇宙産業への挑戦もある.鍛圧機械の専業メーカー,株式会社中島田鉄工所の事例で,ぷらすとす2)にもインタビュー記事が掲載されている.ネジやボルトなどを作る機械を製作するメーカーである株式会社中島田鉄工所が,超小型衛星の製作で宇宙関連事業へチャレンジした.この一見繋がらないように見えるネジと宇宙であるが,人工衛星を作ることで得られた知識と経験が,本業の機械加工でも活かせており,人材育成においても刺激になっているという.池井戸潤さんの小説『下町ロケット』のドラマ化の影響もあり,注目を集め,今では子供たちに,ものづくりや宇宙へのあこがれを育む存在となっているようだ.
こういった新分野への挑戦が増え,塑性加工に新たな活躍の場と,明るい話題をもたらすことを期待したい.
 
3. 本学会の役割
 
本学会が果たすべき役割について,これまでの多くの方々からのご指摘を踏まえ,筆者の考えを述べてみたい.
 
3.1 塑性加工学の活性化
 
春季・秋季の講演会は,最新の研究発表を聞き,研究トレンドを知り,会員同士が交流できる学会最大のイベントである.こういった場の提供は,先に述べた塑性加工技術の進化に大きく貢献するものであり,より参加しやすく,魅力的なコンテンツを充実させていきたい.また協業・協創や技術の掛け合わせ,新分野進出が加速されるように,他の学会・協会と連携を深めるような企画を立案し,さらに盛り上げていきたい.  分科会や委員会が果たす役割も非常に大きい.各領域の専門家が個別に集まって議論するだけでなく,ニーズ指向で異分野の専門家が集い,コラボレーションが進む.これを加速させるために,時代のニーズに合わせた再編検討や,産学連携による出口戦略をさらに強化していきたい.
 
3.2 人材育成とプレゼンス向上
 
学会に関するアンケート結果を見ると,人材育成に関する要望が多くみられる.正会員,学生会員,賛助会員,それぞれの要求レベルに合わせた専門講座,基礎講座の充実,さらに,企業団体や協会と連携した人材育成コースの開設も検討したい.裾野を広げ,塑性加工を指向する学生を確保するためには,塑性加工の面白さ,魅力をアピールすることが大変重要である.YouTubeなどのSNS(Social
Networking Service)ツールを活用し,認知度を高めることも考えていきたい(図3参照).
YouTubeの全世界月間利用者数は20億人と言われ,すでに多くの企業によって,広報や販促のツールとして,ビジネス活用されている.塑性加工は,一般の人がほどんど知らない,のぞいたことのない,マニアックな世界である.だからこそ,動画にして配信することで,一般の人の目には,真新しく,面白く,映る.実際,ものづくり系動画は意外と多く,視聴回数が10万回を超えるものも数多くある.人気ユーチューバーやインフルエンサーとコラボすることも面白い.チャレンジ系動画と言われる「○○してみた」という動画は,ジャンル別首位の人気ジャンルである.人気アニメに登場する武器や道具を,「塑性加工のプロが作ってみた」なんていう動画がヒットするかもしれない.若者向けアピールのみならず,新たな領域への売り込みや,他の業界とつながるきっかけ作り,何よりも明るい話題作りとして,大いに期待できる.
 
4. おわりに
 
産業界で起こるパラダイムシフトに追従し,必要とされる塑性加工技術,学会であり続けるためには,これまでの技術・活動を大切に磨き上げると同時に,新たな試みや変革が必要となってくる.会員の皆様には,より一層のご参加,ご協力,ご活用をいただき,たくさんの人のワクワクとドキドキが詰まった学会へと盛り上げていただきたい.
 


図1 日本のGDP と 日本塑性加工学会正会員数の推移
 
 
図2 従来の分業と掛け合わせ技術
 
 
図3 人材育成とプレゼンス向上
 

 
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参 考 文 献
1)松下富春:ぷらすとす,3-25(2020),1-2.
2)盛田真史:ぷらすとす,3-26(2020),107-111.
3)真鍋健一:塑性と加工,56-653(2015),433-434.
4)山崎一正:塑性と加工,57-665(2016),501-502.
5)吉田一也:塑性と加工,58-677(2017),457-458.
6)吉江淳彦:ぷらすとす,1-6(2018),383-384.
7)米山猛:ぷらすとす,2-18(2019),317-318.
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